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ロケット壱号
「ミクちゃん2」


 きのうボクらは学校のちかくの灯台に絵をかきにいきました。みんなで灯台の絵をかきました。遠足みたいで楽しかったです。
 ボクは最初に海を書きました。灯台は白くて大きいだけで、書いていてつまらなそうだったからです。画用紙の半分くらいに青色と緑色で海を書いてから灯台を書きはじめました。そしたら灯台の上のほうが画用紙に入りませんでした。
 ヒコイチくんは白の絵の具がなくなっていたので灯台を黄色で書いていました。絵を書くのにちょっとあきたので、ボクらは原っぱに寝そべって雲を見ていました。風がとても強いので雲がはやいです。ずっと雲を見ているとボクらが動いているように思えます。大きな乗り物にみんなで乗っているみたいです。
 そうしているとヒコイチくんが言いました。
 「なあ、ちょっと探検しにいこうぜ」「えー、だってまだ絵を書き終わってないよ」「なんだよー、絵なんてどうでもいいじゃん、いこうぜいこうぜ」「うーん…、でもどこにいくんだよ」「そんなの灯台に決まってるんじゃんかよ」「灯台かー、登ってみたいなー、…よし、いこうぜ」
 ボクとヒコイチくんは先生に見つからないように灯台の下まで走りました。ボクは灯台を上まで登って、みんなに手を振って驚かせようと思っていました。
 「どっかに入るとこがあるハズなんだけどなー」ボクとヒコイチくんは入り口を探しました。
 「あ!」「なんだよ」「しっ」ヒコイチくんは口の上に人さし指をあてながらボクにいいました。「ほら、あそこ、誰かいるぜ、影が見えるだろ?」「え? 灯台の人かなー」「やべーよ、逃げよーぜ」「…あ、あれって…」「お前そっちから逃げろ、オレはこっちから逃げるから」「ま、まってよ」「いいからはやくしろ」そう言うとヒコイチくんはさっさと走っていきました。ボクもちょっと逃げたけど、やっぱり戻りました。さっきの影が子供のように思えたからです。だけどそこにはもう影はありませんでした。
 「ここでなにしてんの?」「わっ!」後ろから声をかけられてボクはとってもビックリしました。「…あ、ミクちゃん」それはボクと同じクラスのミクちゃんでした。
 「ここでなにしてんのよ」「おまえこそなにやってんだよ」「私? 私は灯台に登りにきたの」「へんなやつー、先生に怒られっぞ」「じゃー、あんたは何しにきたのよ」「オレは…、その…、ヒコイチと探検に…」「探検? バカじゃないの」「バカっていうなよ、お前だってバカのくせに」「ヒコイチくんは?」「帰った」「一人で?」「お前の影にビビって別々に逃げようとしたんだよ」「ふーん…、で、あんたは帰らないの?」「おれは…まだ」「本当は灯台登りにきたんでしょ」「まーそうだけどよー…」「じゃー一緒に登ろうよ」「お前やっぱり、へんなやつー」
 さっきの影と同じように、ミクちゃんのスカートと髪の毛は風にゆれてました。
 ボクらは2人で灯台に登る事にしました。入り口のカギは腐っていたので壊して開けました。灯台の中にはグルグルとした階段がありました。「スゲー…」「うわー…すごーい」見上げると、空に届くくらいどこまでもどこまでも階段が続いていました。その階段をミクちゃんが先に登りはじめました。ボクは後ろからチラチラとパンツを覗きみながらついていきました。
 「お前、なんで灯台なんか登りにきたんだよ」「これで飛んでいくの」「飛ぶ?」「そう」「飛ぶって、この灯台が?」「そう」「バーカ、灯台が飛ぶわけねーだろ」「だっていとこのお兄ちゃんがいってたもん。この灯台は本当はロケットで地球が壊れちゃう時に偉い人なんかがコレに乗って宇宙に逃げるんだって」「お前そんな事信じてんのか」「ちょっと」「お前やっぱりバカじゃねーか」「じゃーもし本当に飛んだらどうするの?」「なんでもしてやるよ、飛ぶわけねーもん」「信じてないの?」「信じるわけねーだろ」「じゃー、飛んでみたいとは思わないの?」「そ、そりゃロケットに乗ってみたいとは思うけどさー」「じゃーいいじゃない、このロケットで飛んでいこうよ」「だからこの灯台は飛ばねーつってんだろ」「いいもん。そんなに言うなら、もし飛んだって乗せてあげないもん」「なんだよ、乗せてくれたっていいだろ」「だってこのロケットは飛ばないんでしょ」
 灯台の中の階段はグルグルとグルグルとずっと続いていました。ボクはちょっと目がまわってきました。
 「お前、これで飛んで、そしたらどこいくつもりだよ」「なによ、灯台が飛ぶわけないんでしょ」「そーだけどよ、もしロケットだったとして」「うーんとね、ライカのとこ」「誰それ」「昔飼ってた犬」「どっかいちゃったの?」「死んだの、ずっと前」「じゃーこのロケットで天国にでもいくつもりなのかよ。バッカじゃねーの」「いいじゃない。あとはねー」「まだあんのかよ」「お母さんのとこ」「…死んだの?」「ううん、どっかいちゃった」「どこに?」「知らない」「お前、本当にこの灯台が飛ぶと思ってんのか?」「あ、ついたよ、てっぺん」
 灯台のてっぺんにはボクの背よりうんと大きなライトがありました。まわりは全部ガラスで、見渡すかぎりずっと青色と緑色の海でした。遠くの方に小さく船が見えました。雲は相変わらずはやく流れていて、向こうの空の下の方がちょっとオレンジ色になっていました。
 「なー、もうすぐ夕方だぜ」「発射ボタンはどこにあるのかな?」「そんなのあるワケねーだろ」「飛びたくないの?」「だからー、そりゃ飛んではみたいけどさー…」
 ボクは小さなガラス窓を開けました。そこから風が吹き込んできてミクちゃんの髪がゆれました。
 「……なによ、わたしだって飛ばないのくらい知ってるもん。だけど…だけど、もしかしたらもしかしたら飛ぶかもしれないじゃない、信じていれば飛べるかもしれないじゃない」風がふいてミクちゃんの髪が顔にかかりました。「私を連れていってくれるかもしれないじゃない」ミクちゃんの頬と向こうの海が夕日でキラキラ輝いてました。
 「あ、あったよ、ホラッ」「…なにがあったのよ」「発射ボタン」「ウソツキ」「ホントだよ」「そんなのあるわけないじゃない」「どっかに捕まって、いま押してみるから」
 灯台のてっぺんは高くて、雲ははやくて、階段をグルグル登って、キラキラ眩しくて。ボクらはなんだか空を飛んでるようでした。


 今日ボクは夢を見ました。
 黄色い灯台が宇宙を飛んでいました。ロケットのようにゴーゴーと火を吹きながらどこかに飛んでいきます。灯台の先っぽには小さな子犬を抱いたミクちゃんが乗っていて、笑いながら手をふっていました。その後ろには大人の女の人が乗っています。ミクちゃんの横にもう一人子供が乗っているように見えたけど、誰だかよくわかりませんでした。







 追伸1:このテキストは「ロケット壱号」への寄稿TEXTです。
 追伸2:仮想モデル灯台は千葉県南房総の野島崎灯台です。

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