sumertime19:00
サマータイム19:00 


17の夏の話。
海水浴目当ての観光客で人口が2倍くらいになる、海辺の小さな町。
その夏もボクはリゾートホテルでバイトをしていた。

いなか特有の閉鎖的な仲間意識やドロドロとした人間関係にはどうしても馴染めなかった。
漠然とした自分の行く先に悶々と悩んでいた。世界からの逃避、社会への疑問。そして被害者意識と自己嫌悪。
よくある思春期。



そのホテルのバイトで彼女と出会った。
リゾートホテルにはひと夏だけの住み込みバイト(リゾートアルバイター)の人も
たくさんいて、彼女はその中の一人だった。

彼女とボクともう一人住み込みで来ていた女子大生との3人で、バイトが終わった後よく飲みに出かけた。大抵はボクと彼女がいろんな思いを吐き出しながら喋るのを年上の大学生が聞いてくれる、そんな感じだったと思う。たわいもない話    でもその頃のボクには大事な話    を喋っては飲んで。その夏のその3人は気があった。初めて出会ったような気はしなかった。

タバコを本格的に吸い出したのもその頃だったと思う。


3人で飲みに出かけるようになって何度目かの夜。
闇夜の浜辺で缶ビールを飲んで過ごしてみた。

 雲ひとつない星だらけの月夜、やけに多い流れ星。
 太陽の熱を失った砂、波の音、アルコール、たわいもない話。


そして、彼女が家出中という事をそこでボクははじめて知った。
理由は忘れた。でもきっとよくある思春期の悩みだったのだと思う。

夏は人を解放的にする。夏は人を行動的にする。夏は人を惑わす。

 どうしたらいいのかわからずに何も出来ないでいたボクと、
 どうしたらいいのかわからなかったけど行動を起こした彼女。
 その行動が何にせよ、その差は大きい。


もっと驚いた事に彼女はボクと同じ高校だった。
その日は朝日がのぼるまで浜辺で遊んだ。


夏も終わりに近付いて観光客もへってきた。
ボクらと東京で会いましょうと約束をし大学生は帰っていった。
でも家出中の彼女には帰るところはなかった。

夜の海辺の道を2人乗りした自転車で走りながら、ボクは彼女に家に帰るようすすめた。
そんな彼女をちょっと羨ましく思っているくせに。何も出来ないくせに。

夜風が冷たくなってきた夏の終わり、彼女も帰っていった。



夏休みが終わって2学期の始まった高校。
始業式に向かう廊下でバッタリと彼女に会った。
どうやら家出は終わったようだ。
そんな彼女とボクは同じ学校に通って、同じ学校の制服を着ているのに、
なにかが違うように感じた。

 どうしたらいいのかわからずに何も出来ないでいたボクと、
 どうしたらいいのかわからなかったけど行動を起こした彼女。
 その行動が何にせよ、その差は大きい。






追伸1:このテキストは「sumertime19:00」への寄稿TEXTです。
追伸2:脚色はあるけど基本的にはノンフィクションです。
     彼女と女子大生と帰国子女と修行中料理人に感謝。
     他の出来事とか後日談は内緒。

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